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障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨


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瀬山 紀子(せやま のりこ) 埼玉県男女共同参画推進センター
河口 尚子(かわぐち なおこ) 立命館大学客員研究員
佐々木 貞子(ささき さだこ) DPI女性障害者ネットワーク
真下 弥生(ましも やよい) 大学非常勤講師
臼井 久実子(うすい くみこ) DPI女性障害者ネットワーク
藤原 久美子(ふじわら くみこ) DPI女性障害者ネットワーク
加納 恵子(かのう けいこ) 関西大学

■報告題目

国連は障害女性の複合差別をどう取り上げたか―女性差別撤廃委員会ロビー活動報告

■報告キーワード

女性差別撤廃条約/障害女性/複合差別

■報告要旨

 本報告では、報告者らがDPI女性障害者ネットワークの活動として、2016年2月に行われた国連女性差別撤廃委員会での7年ぶりの日本政府報告審査を傍聴すると同時に、その前後に行ったロビー活動、及び委員会が出した最終見解(=勧告)について報告し、その成果や課題について検討を加えたい。

第7・8回女性差別撤廃条約日本政府報告審査に対する取組

 今年、女性差別撤廃委員会が開かれ、日本政府の第7・8回政府報告審査が行われた。日本政府は、本審査に先立ち、2014年9月に国連に報告書を提出。それを受け、2015年7月に事前作業部会が開かれ、本審査で議題となる課題のリスト(List of Issues)が作成され、それへの事前回答が提示され、今年の本審査が行われた。
 DPI女性障害者ネットワークは、この一連の審査プロセスに、日本女性差別撤廃条約NGOネットワーク(JNNC)のメンバーとして関わり、レポートの提出、事前作業部会及び本審査へのメンバーの派遣と現地でのロビー活動を実施した。
 今回の審査は、日本政府が障害者権利条約を批准して以降初の、女性差別撤廃条約に基づく審査でもあった。そのため、2014年9月に提出された日本政府報告書には、障害者権利条約を批准したこと、またその過程で、「障害者基本計画において、(中略)女性である障害者は障害に加えて女性であることにより、更に複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する旨を盛り込んだ」と、はじめて複合差別の課題に言及した。
 それに対して、DPI女性障害者ネットワークでは、政府の計画には障害女性の複合的な困難が存在するという認識は書かれたが、具体的な計画や政策はない、として、①障害者及び女性に関わる政策決定の場への障害女性の参画を進めること、②障害分野に関するジェンダー統計を実施すること、③これまでの独自調査(註1)などからも実態が明らかになっている、障害女性に対する暴力被害を踏まえた相談支援や支援者の研修等が必要であること、④あらゆる社会サービスへの障害女性のアクセスを保障すること、⑤自由権規約委員会からすでに過去に勧告として出されている「旧優生保護法による強制不妊手術の調査および被害者への補償」を実現する道筋をつけることの5点を主に訴えてきた。

審査の傍聴及び最終見解で示されたこと

 本審査では、委員から、データ不足のために公共政策がとられていないこと、暴力被害が深刻であること、貧困に対応する政策が必要であることなど、障害女性に関わる多岐にわたる質問が出された。また、委員との対話でも、障害女性の課題を含むマイノリティ女性の課題への委員会のなかでの関心の高さを感じることができた。
 さらに、3月に国連から提出された最終見解には、障害女性の権利を強化するために必要な戦略として、クオータ制などの暫定的特別措置の採用を検討すること、障害女性が暴力被害を受けた際に通報等ができていないことへの懸念、強制不妊手術の被害者への賠償及びリハビリテーションのサービス提供をすべきこと、障害女性の教育へのアクセスの障壁を取り除く必要があること、障害女性の雇用分野における調査を実施し、ジェンダー統計を提供すること、貧困の課題のなかで、特に障害女性に特別の関心を払い必要な社会的給付策をとること、障害女性を含むマイノリティ女性の複合差別の根絶を目的とした努力が必要であることなど、多くの具体的な課題と取り組むべき事項が示される結果となった。
 一方で、勧告には、「胎児の重篤な障害の場合に人工妊娠中絶を合法化すること」という文言が書かれた。DPI女性障害者ネットワークでは、この件について、現地で、委員との間でも意見交換を行い、障害を理由にした中絶の合法化への懸念を訴えてきた。しかし、結果として、この文言が記されたため、継続して情報や意見の交換をおこなっている。
 今回の報告では、こうした一連の活動について情報及び成果と課題を提示し、障害女性の複合差別に関する今後の調査研究と活動の足掛かりを提供したい(註2)。
 なお、本報告は、国連での審議及び最終見解とそこに与えた報告者らの活動のインパクト、及び、そこに至る過程で提出した公開情報をもとに構成するものであり、特段の倫理的配慮を必要とする内容は扱わない。

¶註
1)調査については、DPI女性障害者ネットワーク編2012『障害のある女性の生活の困難―人生の中で出会う複合的な生きにくさとは ―複合差別実態調査報告書』を参照のこと。
2)活動報告は、同ネットワーク2016『国連女性差別撤廃委員会の第7回・8回日本政府報告審査に関するロビー活動報告書』を作成している。 



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