障害学会第11回大会(2014年度)

障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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橋本 眞奈美(はしもと まなみ) 九州看護福祉大学 看護福祉学部

■報告題目

障害者介助の場における感情労働を超越する、関係性に基づく配慮へ

■報告キーワード

感情労働、ケア、自立生活

■報告原稿
hashimoto.doc(MS Word 97-2003ファイル)

■報告要旨

 ホームヘルパー養成講座で使用することになるテキストは、ヘルパーに対して感情労働を求めている(橋本,2014,93-4)。これは自分ではできない事を抱えている人として利用者を位置付けることをヘルパーに対して求めているからである。しかし自立生活を実現している重度障害者の多くは早朝から深夜まで、訪問してくる複数の介助者からサービスを受けている。彼らの中には、自分の元へ訪問してくる介助者たちが一番身近な他者になっている人もいる。さらにここで言うところの身近な他者は、障害者が自身のプライバシーを曝け出している他者であり、また必要な時に自分の側にいないと困る他者でもある。このように重要な位置づけを与えている他者が感情労働しかしない介助者であるならば、障害者が一人の人として働きかけても、介助者という立場からしか受け答えをしないということが起こる。これを重度障害者から見るならば、自分のプライベートな生活の場にいる人は重要な他者ではなく、介助という賃労働をする人でしかないという生きづらさになるのである。

2)感情労働がもつ阻害

 感情労働についてはホックシールドによる定義(ホックシールド,1983=2000,7)が広く知られている。また渋谷望による介護労働者に対する「介護される者と長期的な関係を保たねばならないため、感情の管理はある意味でいっそう困難である(渋谷,2003,29)」という指摘は、介護の場における感情労働の難しさを示している。

 感情労働を行わなければならない介助者にとっての感情労働のメリットは、介助者個人の「私」の感情を表出させることなく、つまり介助者個人の内面をみせることなく(ホックシールド,1983=2000,41)介護行為ができることである。そして感情労働に対する評価は是であるのだから、介助者にとって感情労働をすることは奨励されることになる。また介助を利用しなければならない障害者にとってのメリットは、介助者の言動によって自分自身が適切な精神状態を作りだすことが容易になるということである。そして介助の場にコンフリクトなどが持ち込まれることはないのだから、利用者である自分とその介助者という安定した固定された関係が作れることである。

 しかし介助者が感情労働を行い続けることは、「支援が必要な利用者と支援するヘルパーである自分、という関係に(2者の関係性を)押し留める(()は筆者、橋本,2014,110)」ことになる。これによって、利用者である障害者のエンパワメントが阻害されることが起こるのであるから、自立生活を実現している重度障害者がエンパワーしていくことを目指すとき、介助者の感情労働は是であると位置づけることはできないのである。

3)ケアに含まれる介助

 介助行為は利用者と介助者による相互行為である。双方からの影響を互いに受け取りつつ、また影響を与える関係である。これは介助という営みがケアに包摂されているからである。ケアについて山根純佳は「ケアは物理的な活動・労働を指す概念であると同時に、配慮・思いやりなど他者への態度を意味する(山根,2005,1)」と述べる。また広井良典はケアという言葉が持つ広い意味として「他者とのかかわりということであり、(中略)それは人間が普遍的にもっているひとつの性向である(広井,2000,16)。」と述べている。介助行為を挟んで他者と向きあうとき、他者の存在を受け取り、また他者に応えていく行為はケアという言葉が持つ広がりの中に含まれるのである。またケアは他者に対するものであるから、「良いケア」、あるいは「是と位置づけられるケア」といった言説を省みるとき、ケアの受け手にとっての「良いケア」と、ケアを提供する者にとっての「良いケア」があることになる。この2つの視点から「是と位置づけられるケア」を把握していかなければならない点において、何が是なのかという問いの困難さが立ち顕れてくることになる。

4)感情労働を超越する介助へ

 ケアは配慮や思いやりといった視点から把握することができるのだから、ケアに含まれる介助においても、介助者が利用者に配慮する、思いやるという視点、あるいは利用者である障害者が自分の介助者である他者に対して配慮する、思いやるという視点から「是と位置づけられるケア」をとらえることは可能になる。そうであるなら、感情労働の是非を問うという視点を超越する関係性から、「良い介助」を位置付けることは可能なのである。

引用文献
Hochschild,A,R.1983,The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling .California:The university of California Press.(=2000.石川准,室伏亜希訳,『管理される心 感情が商品になるとき』,世界思想社),
橋本眞奈美,2014,『「「社会モデル」による新たな障害者介助制度の構築」,明石書店.
広井良典,2000,『ケア学-越境するケアへ』,医学書院.
渋谷望,2003,『魂の労働 ネオリベラリズムの権力論』,青土社.
山根純佳,2005,「『ケアの倫理』と『ケア労働』」,ソシオロゴス29,ソシオロゴス編集委員会,1-18.



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