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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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打浪(古賀)文子 (うちなみ(こが)あやこ) 淑徳短期大学こども学科
かどや ひでのり 津山工業高等専門学校

■報告題目

ノルウェーにおける情報保障―活字媒体『クラール・ターレ』について

■報告キーワード

LL / 情報保障 / ノルウェー

■報告要旨

 日常生活は、さまざまなかたちの情報を外部からとりいれ、同時に発信することを基盤の一部としてなりたっている。情報の受発信が保障されることによって、社会的な諸権利の保障ははじめて可能になる。したがって、社会生活の基盤となる情報の受発信をすべての人々が支障なく行えるようにすること、すなわち「情報保障」は社会政策上の課題である。いかにして情報保障を行うか、情報保障を阻むバリアの発見とその構造の分析は、障害学上の基本問題といえる。
 本報告が課題とするのは、それらのうちマスメディアが担っている水準の情報保障について、社会的な経験の蓄積が進んでいるノルウェーの事例の検討である。情報保障を阻むバリアには、情報の形式によるもの(どの言語か、墨字か音声か、電子媒体か、など)と内容によるもの(受信者が理解可能な内容かどうか)が考えられるが、ノルウェーには多様なマイノリティへの情報提供をめざしている新聞(週刊)、クラール・ターレ紙がある(以下KTと略)。同紙は言語上の障害のあるマイノリティ(知的障害者など)がマスメディアに対して抱えているバリアを除去することを目指す理念にもとづいて発刊された。イギリスやスカンディナヴィアでは、20世紀の早い時期から、スウェーデン語のlättläst(レットレスト)やイングランド語のEasy to Read(イージートゥリード)といった言葉で表される文字情報のユニバーサルデザイン化が進んでおり、そうした文脈の上に位置づけられる。
 1989年にノルウェー知的障害者協会から政府に要望が出され、1990年10月に30万ノルウェー・クローネの補助金が社会局から支出されてKTがスタートした。障害者政策の一環として位置づけられ、ニュース配信企業であるノルウェー・テレグラム・ビュローの編集により、週刊で発行された(当初の15年間、同社が担当)。はじめは知的障害者を読者対象としていたが、読みやすい/わかりやすい新聞は、マスメディアの情報から疎外されている読者対象の需要を顕在化させることとなった。現在では、こども、移民、弱視者、ディスレクシアを有する人も読者対象として想定されている。初等教育学校での購読も多い。KT紙の発行、編集指針については、知的障害者協会、盲人協会、言語障害者や移民の当事者団体などからなる委員会が決定し、実際の編集をどこが担うかは、5年おきに実施される入札によっている。現在はメントール・メディア社の子会社レットレスト・メディア社が担当しており、編集者らは専従職員である。同社により6年前からネット版もつくられ、日刊紙化している。KTの紙面は、言語的に困難を抱える人々に対して、マスメディアと同等の情報をいかに保障するかというスタンスで一貫している。たとえば国政選挙の際には別個に予算が政府から配分され、10万部(通常は12500部程度)発行される。内容についての干渉がされることはない。
 KTの発行は公的扶助や各種の助成金によって可能になっているが、それが長期間続いたことによって、ノルウェーにおける情報保障のための方法開発は相当に深化している(紙面構成の精緻化にくわえ、たとえば文字をつかわない新聞が試行的につくられている。www.nyheterbileder.no参照)。こうした状況は、KTがメディア一般に認められ公共性が高いゆえに、経済活動の一部としてではなく、社会的に維持することの必要性が認識されてなりたっている。つまり、「マジョリティに対する情報保障」が「マイノリティに対する情報保障」の前提としてあることが観察できる。

謝辞

本研究は平成24〜26年度日本学術振興会学術研究助成基金(基盤研究(c))「スカンディナヴィアにおける人権擁護システムとしての情報保障制度の実証研究」(課題番号:24530777、研究代表者:角谷英則,研究分担者:打浪文子)の成果の一部である。記して謝する。

主要参考文献

かどやひでのり、打浪文子「情報保障における当事者性――情報保障媒体の日瑞比較」日本言語政策学会第15回記念大会、桜美林大学、2013年6月
打浪文子、かどやひでのり「知的障害者向け機関誌「ステージ」 当事者性からみる情報保障」障害学会、於:早稲田大学、2013年9月
野沢和弘『わかりやすさの本質』日本放送出版協会、2006年



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