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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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青木 一桂 (あおき いっけい) 沖縄県立泡瀬特別支援学校

■報告題目

交流及び共同学習の一例にみる障害者像の「ゆらぎ」から考える交流教育の可能性と課題

■報告キーワード

交流及び共同学習 / 障害者像 / 障害者理解

■報告要旨

 本報告は,肢体不自由を有し特別支援学校に通学する男子生徒1名と中学校の通常学級とによる交流及び共同学習の実践を通して双方の生徒たちそれぞれのもつ障害者像の違いが顕在化していたことと,交流の深まりを通してその当初の障害者像がゆらいでいったことを考察する。そしてそこには教師の障害者像が大きく寄与すること,しかし,一方で交流の深まりや生徒の思いがけない気づきが教師に障害者像の再考を求めたことも言及する。実践例の考察から,交流及び共同学習の可能性と課題について問題提起したい。
 障害のある者とない者が共に活動する交流及び共同学習は,特別支援学校や小・中学校等のそれぞれの学校の教育課程に位置付けられており,インクルーシブ教育システムの構築を目指す今後の教育において,ひいては共生社会の実現に向けて重要な役割を持つものと期待されている教育活動である。例えば,平成16年に一部改正された障害者基本法には,「国及び地方公共団体は,障害のある児童及び生徒と障害のない児童及び生徒との交流及び共同学習を積極的に進めることによって,その相互理解を推進しなければならない(同法14条)」ことが盛り込まれたし,文部科学省も,『交流及び共同学習ガイド』の中で,障害の有無にかかわらず、誰もが相互に人格と個性を尊重し合える共生社会の実現を目指すうえで,障害のある人と障害のない人が互いに理解し合うことが不可欠なことから,その意義を強調している。
 交流及び共同学習では,障害のある児童生徒に対して,経験を広めて積極的な態度を養い,社会性や豊かな人間性を育むことを目指す一方で,障害のない児童生徒にも,障害のある児童生徒に対する正しい理解と認識を持つことが期待される(肢体不自由教育,2011)。
 しかし,そこには真城(2003)が問題視しているように,障害者に対する役割期待を生み出してしまったり,固定的な障害者像が形成されてしまったりする危険も孕む。富永(2011)が,障害(がい)理解教育と関連付けた交流及び共同学習を提起していることは,こうした交流及び共同学習のもつ危うさを問うものともいえる。
 報告する交流及び共同学習の実践は,平成25年度において,年間7回にわたり沖縄県立泡瀬特別支援学校中学部に在籍する2年生男子生徒1名が,沖縄市立宮里中学校2年1組の学級に入って共に授業を受ける形態で行われたものである。それらのプログラムを通して生徒の感想から障害者像の「ゆらぎ」がどの過程で何を契機に生じ、或いは生じなかったのかを報告する。
 障害のない生徒たちによる障害者像の「ゆらぎ」に寄与したのは,障害のある生徒の存在である。人的・物質的支援の比較的整った支援学校とは異なる中学校の環境はディスアビリティを可視化し,かつ体験させる。また,「常に介助を必要としているはずの障害者」という認識に立つ障害のない生徒たちからの接し方への戸惑い,さらに障害のある子どもたちが通う特別支援学校から交流に来たという交流及び共同学習の文脈において,否応なしに対比される障害のある生徒と障害のない生徒という構図への反発,障害者(児)の代表者のように見られることへの若干の違和感などもみられた。生徒はこうした違和感をもとに,障害のない生徒たちに何を伝えるべきなのかを考え,教師とともに障害のない生徒たちに対して特別授業を行なった。特別授業は,障害のない生徒たちの中の障害者像に「ゆらぎ」をもたらすと同時に,その経験が自分自身の障害の経験を活かすという新しい自分の可能性に気づきを与えた。その過程は障害のある生徒の中の障害者像も「ゆらぎ」をもたらすものだったと言える。
 障害者像の再考を迫られたのは教師も同様である。交流の目的は,障害のある生徒(特別支援学校の生徒)にとっては「社会性や豊かな人間性を育むため」,障害のない生徒(中学校の生徒)にとっては,「障害のある児童生徒に対する正しい理解と認識を持つため」であったが,交流の学習では教師のもつ障害者像が色濃く反映されること,その上で教師も障害のある生徒に無意識的にも役割期待をしていたことが,双方の生徒たちの交流と学びの深まりに伴う障害者像の「ゆらぎ」を通して突きつけられた。教師の内省という視点からも交流及び共同学習の可能性と課題について問題提起したい。

【主な参考文献】
・石川准・長瀬修編『障害学への招待』明石書店(1998)
・石川准・倉本智明『障害学の主張』明石書店(2002)
・文部科学省ホームページ『交流及び共同学習ガイド』
・全国特別支援教育推進連盟『よりよい理解のために 交流及び共同学習事例集』ジアース教育新社(2007)
・河村久「これからの交流及び共同学習のあり方」『肢体不自由教育』198号(2011)
・真城知己『「障害理解教育」の授業を考える』文理閣(2003)
・冨永光昭編『新しい障がい理解教育の創造』福村出版(2011)



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