2016年11月6日 障害学会第13回大会報告用資料 障害スコア――障害統計の方法論についての考察 榊原賢二郎 要点 ・「障害の重度性」は社会的な観点からとらえ直せる ・社会モデルでいう障害(ディスアビリティ)は、「社会的排除」(社会への参加可能性を奪われていること)の一種として考えられる ・社会的排除としての障害がどの程度重度かを測るのに、統計を使うことができる。 ・統計を使った重度性の測定方法としては、「客観的方法」と「主観的方法」がある ・「客観的方法」は、ある身体的条件を持っている人が、実際にどの程度排除されているのかによって、障害の重度性を測定する ・「主観的方法」は、ある身体的条件がどの程度排除に結びつきそうかを、回答者に考えてもらい、答えてもらう。 ・主観的方法では、それぞれの身体的条件について、それがどの程度の障害をもたらすかを示す数がえられる。これを障害スコアと呼ぶことにする。 ・障害スコアは、社会学でいう「職業威信スコア」という職業評価の方法をもとにしている ・障害スコアには、以下のような長所がある。 -人々のリアリティを一定程度反映している -小規模な調査で結論を導ける -多くの身体的条件を評価できる -これまで障害とは考えられてこなかった状況も、柔軟に調査できる ・障害スコアには、以下のような短所もあるので、客観的方法とあわせて使う必要がある。 -言葉づかいに左右される -回答者にとって全くイメージがわかない身体的条件は調査できない 質問文  以下の表に並んでいるのは、心や体の状態です。この中には、仕事や学校生活、結婚や家事・育児などといった社会生活で不利になるものもあるようです。以下の心や体の状態は、どの程度社会生活に不利になると思いますか。  それぞれの状態について、「非常に不利になる」「やや不利になる」「あまり不利にならない」「まったく不利にならない」のどれか1つをお選びください。 参考文献 小松丈晃(2003)『リスク論のルーマン』勁草書房。 榊原賢二郎(2016)『社会的包摂と身体――障害者差別禁止法制後の障害定義と異別処遇を巡って』生活書院。 直井優(1979)「職業的地位尺度の構成」富永健一(編)『日本の階層構造』東京大学出版会、434-472。 花田春兆(1991)「ADA法やぶにらみ」八代英太・冨安芳和(編)『ADA(障害をもつアメリカ人法)の衝撃』学苑社、122-130。 星加良司(2007)『障害とは何か』生活書院。 Barnes, Colin, Geof Mercer and Tom Shakespeare(1999), Exploring Disability: A Sociological Introduction, Cambridge: Polity Press. = (2004)杉野昭博(他訳)『ディスアビリティ・スタディーズ――イギリス障害学概論』明石書店。 Luhmann, Niklas(1995), “Inklusion und Exklusion”. = (2007)村上淳一(訳)「インクルージョンとエクスクルージョン」村上淳一(編訳)『ポストヒューマンの人間論』東京大学出版会。 Oliver, Michael(1990), The Politics of Disablement, London: Macmillan Education. = (2006)三島亜紀子(他訳)『障害の政治――イギリス障害学の原点』明石書店。 Treiman, Donald J., 1977. Occupational Prestige in Comparative Perspective. Academic Press. UN ECOSOC Statistical Commission(=United Nations Economic and Social Council Statistical Commission)(2006), “Report of the Washington Group on Disability Statistics”, Retrieved June 4, 2016, http://unstats.un.org/unsd/statcom/doc07/2007-4e-Disability.pdf . UPIAS and DA(=The Union of the Physically Impaired against Segregation and the Disability Alliance)(1976), Fundamental Principles of Disability, London: UPIAS and DA.