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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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福田 暁子 (ふくだ あきこ) ズレータプロジェクト (代表)
梶山 紘平 (かじやま こうへい) ズレータプロジェクト (災害ユニバーサルデザイン)
北村 弥生 (きたむら やよい) 国立障害者リハビリテーションセンター研究所

■報告題目

医療・意思疎通面でニーズの高い単身生活の重度重複障害者の防災における主体性の意義

■報告キーワード

防災 / ユニバーサルデザイン / 当事者性

■報告要旨

1. 目的

 東日本大震災では、障害者の死亡率が住民死亡率の約2倍以上であることが明らかとなった。2015年3月に仙台にて行われた国連防災会議においても、このデータは大きくとりあげられ障害当事者が防災における担い手としての必要性が強く認識された。新しい防災枠組み「仙台防災枠組2015-2030」も採択されたが、東日本大震災から4年がたった今、果たして障害者が地域で主体性をもって防災に取り組むとは、どのように可能なのか、そもそもなぜ逃げ遅れてしまうのか、医療、意思疎通面で非常に高いニーズを持つ単身生活を送る重度の障害者がリーダーとなり、シミュレーションを通して防災における在宅障害者の課題を検証し、当事者が主体性を持って防災に取り組むことの意義を明らかにする。

2. 背景

 「障害と開発」を担う、障害当事者の人材を育成するためにズレータプロジェクトが2013年3月に立ち上げられた。その後、4つの自主グループに分かれて、障害当事者がリーダーとなり、枠に当てはまらない活動を行っている。「災害ユニバーサルデザイン」もその中のひとつである。本報告ではこの活動の報告を行う。
 「災害ユニバーサルデザイン」のリーダーである共同報告者の自宅が火災により介助者一人体制時に、一刻もはやく自宅から避難しなければならないという想定で、パソコンのチャット機能で打ち合わせをすすめ、実際にシミュレーションを行い、課題などを討議、アイデアを出しあい、チームメンバーが順次、手順書、報告書にまとめていった。チャット機能であれば、報告者は全盲ろうだが、点字ディスプレイを使用し、共同報告者はワンキーマウスを使用して、直接コミュニケーションをとることが出来る。
 災害ユニバーサルデザインのチームには、メッセンジャーナース〔注1〕、友人・知人、日常的に介助を行う介助者、報告者、盲ろう者向け通訳介助者(触手話通訳)など、様々な立場のものが参加している。
 
3. 結果と考察

3-1. 報告者の障害と役割
 報告者は先天性網膜症および多発性硬化症のため、全盲ろう、上肢下肢障害で電動車いすを、非侵襲型の人工呼吸器(24時間)を、嚥下障害に主に胃ろうを使用する他、排泄機能障害などの内部障害もある。コミュニケーションは、情報の受信は主に触手話で行い、発信は基本的に発声で行う。「災害ユニバーサルデザイン」においては、重度重複障害者として提言し、共同報告者間の調整などの事務的な役割を担っている。

3-2. 共同報告者の障害と役割
 共同報告者はデュシェンヌ型筋ジストロフィーのため、気管切開にて人工呼吸器(24時間)を、嚥下障害には主に胃ろうを使用し、24時間介助、在宅医療などの制度を利用し、単身生活を送っている。在宅では基本ベッド上で生活している。気管カニューレの改造により、声量はひくいが発声にてコミュニケーションをとっている。「災害ユニバーサルデザイン」のリーダーとして、当事者としての提言する他、メンバーの調整、役割分担、そして、自らの居宅にて自らの介助者を含む環境をシミュレーションの場として提供している。自宅は3階建ての集合住宅の1階の角部屋で、周囲は小さな路地で囲まれた一軒家および集合住宅などのある住宅地である。

3-3. 結果と考察
 避難ルートは玄関とベランダの2ヶ所に絞られる。玄関からの避難手順と方法は固まったが、ベランダからの脱出方法は模索中である。火元、地震由来の火災による建物の倒壊、玄関周囲の構造などを考えると、玄関からの脱出が不可能である可能性は高い。シミュレーションは3回行い、今後も継続予定である。シミュレーションの記録には研究者と報道関係者に、物品の調達の一部と関連情報の収集には研究者からも協力を得た。
 課題となった項目として、避難具の選定と手順があげられる。既成の避難具は、高齢者を想定しており、複数名での介助を想定したものがほとんどである。使用してみたが、いずれも介助者が一人しかいない状況で、気管切開者の呼吸器ごと移動する必要性に適合するものは見つからなかった。また、手順においても、日頃使い慣れない物品は、非常時には落ち着いて介助者が使用できない可能性がわかった。介助者の体格によって、避難手順も変わってくることもあった。自らでは身体をほとんど動かすことが出来ない者にとっての自助とは、まず、介助者が安全に出来るだけ日常的に慣れた動作で、出来るだけ安心して脱出する方法を確立することである。当事者が実際に行ってみることで、明らかとなる事実が多いことが判明しつつある。これらは、他の障害者にも応用できるものが多いと思われる。

*注1. 「医療の受け手が自分らしい生を全うする治療・生き方の選択を迫られ時に、医療の受け手に生じる心理的内面の葛藤をそのまま認め、医療の担い手との認識のズレを正す対話を重視し、医療の受け手自ら選択・納得に至るまでの懸け橋」になる看護師。


 倫理的配慮に関しては、共同報告者の所属先である国立身体障害者リハビリテーションセンター研究所の基準に準拠している。



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