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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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鎌田 一雄 (かまた かずお) 宇都宮大学名誉教授
米村 俊一 (よねむら しゅんいち) 芝浦工業大学

■報告題目

視覚障がい者の在宅勤務に関する実験的検討

■報告キーワード

視覚障がい者 / 障がい者雇用 / 在宅勤務

■報告要旨

1. まえがき
 テレワークの一である在宅勤務は、障害がある人達の就労形態として注目されている.本報告では、視覚に障害がある人を対象とした実験的な在宅勤務の観察に基づいて在宅勤務の状況をコミュニケーションのメディア、状況などの視点から検討した課題を述べる.

2. 在宅勤務の観察実験
 対象者(HI)は、ソフトウエア関連の業務を行っているが、ほとんど視力がなく白杖を用いた単独歩行で通勤している.家族(WI.専業主婦)は、中途失明(全盲)であり、二人で生活している.在宅勤務実験は、2010年6月から2011年1月までの期間(20ヶ月)に、1日のみ、および3週間、8週間のわせて3回実施した.なお、関係者の同意のもとに、ビデオによる映像記録、インタビュー(音声記録)、および関係者の自己報告(音声記録)を観察資料とした.

3. コミュニケーションの形態
 職場と在宅勤務でのコミュニケーション環境(コミュニケーションのメディアと利用状況、役割)は大きく異なった.職場では音声・聴覚を用いたフォーマル、インフォーマルなコミュニケーションが行われていた.また、他者間のコミュニケーションの漏れ(他人のコミュニケーション状況から知覚できるの)も、職場コミュニケーションの重要な要因であった.在宅勤務環境では、情報通信サービスを使用した音声、文字通話に制約され、コミュニケーションの漏れがない環境であった.なお、家庭内でのコミュニケーション・メディアは、変わりなく音声であった.

4. コミュニケーションと行動の変化
 在宅勤務でのコミュニケーション・メディアの変化に伴う行動について述べる.
(1) 仕事上の意図的なコミュニケーションのみが存在する環境となったため、明示的、体系的な作業形態に変化した.職場でのインフォーマルなコミュニケーションを通した作業調整などが、仕事上のフォーマル(意図的、明示的)なコミュニケーションによる処理へと変化した.一日の作業スケジュール調整や進捗状況の確認などがすべて体系的に処理されるように変化した.
(2) 偶発的なインフォーマルコミュニケーションの機会がなくなった結果、「職場の不可視化」の影響で、孤立感と作業評価への不安が生じた.特に作業の進捗状況と(短期的な)評価が気になり、息抜きの時間が全くない勤務状況に陥ったりした.
(3) 勤務時間の意識が強く、家にいるにもかかわらず家庭内コミュニケーションが希薄となった.空間の共有とコミュニケーションの制約から、WIにはストレスとなることもあった.

5. 検討課題
 コミュニケーションという切り口から、いくつかの課題を述べる.
(1) 在宅勤務では、フォーマルなコミュニケーションのみに制限されてしまう傾向が非常に強かった. 職場でのインフォーマルなコミュニケーションの代替に関する検討が必要である.
(2) 家族関係の調整は.個人的な要因が多いかもしれないが、雇用者(組織)の就労に対する柔軟な対応が必要である.さらに、在宅勤務に関する知識と対応スキルの醸成も課題である.
(3) 組織のコミュニケーションは重要な課題である.在宅勤務でのコミュニケーション形態の変化は、すべての勤務者を対象とした組織コミュニケーションの視点から検討すべき課題である.

6. まとめ
 今回の検討から、在宅勤務の議論には多様で複雑な要因を考慮しなければならないことがわかった.特に、職場の組織的な対応(在宅勤務への理解と対応スキル)と家庭内関係の調整が重要である.

謝辞
 検討の機会を頂いた日本電信電話株式会社(NTT)、NTTクラルティ株式会社、および有益なご意見を頂いた関係各位に感謝する.



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