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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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原田 琢也 (はらだ たくや) 金城学院大学人間科学部

■報告題目

学校現場における「発達障害」の使われ方に関する研究

■報告キーワード

発達障害 / 医療化 / 問題行動

■報告要旨

1. 問題の所在

 近年特別支援学校や特別支援学級に在籍する障害児生徒数が急増している。文部科学省によれば,特別支援学校在学者数は,2004年に98,796人であったものが2014年には135,617人へと,この10年の間に1.4倍に増加していることになる。中でも知的障害の在籍者の増加は著しく,この間に65,690人から121,568人へと1.9倍に急増している(文部科学省 2014)。
 この状況を指して,鈴木(2010)は,「学校現場における障害やさまざまな教育的ニーズのある子どもたちの排除(イクスクルージョン)」と,「通常の学級におけるそのような子どもたちへ対応が十分にできていない状況」があると指摘する。また,教育社会学の領域では木村(2015)が,教師へのインタビュー調査を通して,2007年の特別支援教育の導入を契機として学校現場における「医療化」(medicalization)が進んでいることを明らかにしている。コンラッドとシュナイダー(Conrad & Schneider 1992)によれば,医療化は,社会問題を個人化し,脱政治化するという。脳機能に障害(インペアメント)のある子どもだけではなく,社会や家庭などの環境要因から課題を現出させている子どもまでもが,「発達障害」という医療的な言葉で一括りにされることにより,通常学級から排除されつつあることが伺える。

2. 調査の目的と方法

 本研究では,学校現場における教師による「発達障害」という言葉の使われ方に着目し,授業場面の観察と教師へのインタビューを通して,この現象が生み出される学校の内部過程を明らかにすることを目的とする。インタビューでは,教師がどのような場面で,どのような子どもに対して,どのような意味で「発達障害」という言葉を使っているのか。そして,その行為を教師自らが主観的にどう意味づけ,客観的にどう捉えようとしているのかを明らかにする。現在ある中学校ですでに調査を進めているが,今後,他の中学校にも調査を拡げる予定である。
 発表においては,固有名詞は全て仮名を用い,本人が特定されるような記述を避けるように配慮する。
 
3. 結果 

 調査で見いだされた一つのケースを紹介する。1年生のA君は,小学校の時期から深夜徘徊,窃盗,暴力などの問題行動が後を絶たない。家庭に保護能力が乏しく,生活は不規則である。昼前に登校し,授業に出席しても席に着いていることは希で,教室を出たり入ったりしている。教師の指導には従わず,「キレ」ると見境なく暴れ,対教師暴力に至ることも珍しくない。友人はしだいに離れていき,今は一人で行動することが多くなっている。
 学年の教師たちは,彼には発達障害があるという。こだわりが強く,「キレ」たら収拾がつかなくなる側面があるからだ。しかし,一方で,彼の問題行動は家庭環境によるところが大きいこと,さらに周囲の気を惹くためのアピールとしての側面を強く持っていることを認めている。できることならば医師に受診して欲しいと願いながらも,厳しい家庭環境を考えるとあまり意味がないとも考えている。また,教師たちは,集団づくりを通して彼の居場所をつくることが大切だとしながらも,他の子どもたちとの間にある「差異」を際立たせようとしていた。これら一連のアンビバレントな教師の行動は,ピーターウッズ(Woods 1979)の「サバイバル・ストラテジー」(survival strategy)の枠組みで捉えることにより説明可能ではあるが,ストラテジーは単に教師の「生き残り」のためというだけではなく,逸脱行動をエスカレートさせていくA君を何とか学校に居とどまらせたいという,切実な思いに裏打ちされてもいた。

参考文献

Conrad, P. and Schneider, J.W. (1992) Deviance and Medicalization. Temple University Press, PA. 進藤雄三・杉田聡・近藤正英訳(2003)逸脱と医療化.ミネルヴァ書房.
木村祐子(2015)発達障害支援の社会学.東信堂.
文部科学省(2014)特別支援教育資料(平成25年度).文部科学省ホームページ.http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2015/06/08/1358541_01.pdf
鈴木文治(2010)排除する学校.明石書店.
Woods, Peter(1979)Divided School.Routledge & Kegan Paul.

〔付記〕
 本研究は,2014・2015年度金城学院大学特別研究助成費・金城学院大学父母会特別研究助成費を受けて行った研究成果の一部である。



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