■6−1 体表点字によるヘレンケラーホン(盲ろう者用電話)とIT時代の新しい点字技術 長谷川貞夫(ヘレンケラーホンネット、全国盲ろう者協会、桜雲会) 佐々木信之(筑波技術大学) 大墳 聡 (群馬工業高等専門学校) 牛田啓太 (群馬工業高等専門学校) 庵 悟  (ヘレンケラーホンネット、全国盲ろう者協会) 九曜弘次郎(ヘレンケラーホンネット、富山盲ろう者友の会) ■はじめに  昨2009年は、点字の考案者ルイ・ブライユ生誕200年を記念する年であった。 これまで点字が視覚に障害のある人の生活をどれほど助けてきたかは計り知れない。  長谷川は、点字とコンピュータに関連して、1973年より実験と発表を行なってきた。それらは点字についての3種類の領域である。すなわち、符号であり文字である点字を、日本語JISに対応させた漢字の六点漢字体系による拡張方法であり、キー盤面上における各種の点字式文字入力方法であり、また、点字を、指だけでなく、全身の体表でも読めることを発見したので、体表点字という新しい点字の表示方法である。 ■ヘレンケラーホン ・ヘレンケラーホンは、視覚・聴覚の重複障害である盲ろう者が電話することを可能にした。また、体表点字は、指先だけで読む点字でなく、障害者、健常者と区別なく、利用目的に応じ応用できる、体表で読めるという人類の新しい文字体系である。そこで、視覚・聴覚が障害されている障害者としては重度な盲ろう者から体表点字を応用することにした。 ・ 指先で点字を読むのが困難な中・高年齢からの盲ろう者なども点字を読むのが体表だから読みが可能となり、それにより、電話をかけられるようになったことが特に重要である。現在では、NTTドコモのFOMA電話を用いるのが最も便利であるが、通信料が無料なSkype電話も使えるようにする予定である。 ○ゆうゆうゆう - 盲ろう者の新しいコミュニケーションの形!ヘレンケラーホン http://www.u-x3.jp/modules/tinyd18/index.php?id=91 http://www.u-x3.jp/modules/tinyd18/index.php?id=113 ・電話を、通常の携帯電話を使用するのと同じに数字ボタンで相手の番号を押して電話を掛ける。相手が、盲ろう者であれば、着信をマナーモードに設定しておくことにより振動で着信が分かる。また、通訳介助者や家族であれば、通常のベルの着信音で電話を受けることになる。 ・音声や画面の手話での電話によるコミュニケーションをすることができない盲ろう者は、後に説明する「体表点字」の筆談で電話での往復のコミュニケーションをすることができる。 ・ヘレンケラーホンは、盲ろう者同士、あるいは、盲ろう者でない人との会話が可能である。利用の内容は、予定の打ち合わせ、双方向に何かを伝える。あるいは雑談などである。 ・ヘレンケラーホンでのコミュニケーションの練習方法として「しりとり」をよく行う。「しりとり」は、相手の言葉を理解し、それに合う返事を書くので読み書きのよい練習になる。  そして、点字の漢字での漢字単位での「しりとり」も実験として行なっている。  例えば、「山川」→「川村」→「村田」→「田村」…などである。 ●「ヘレンケラーホン- テレサポート」(テレビ電話による盲ろう者遠隔支援)  これは、盲ろう者が自身で携帯電話のカメラを操作し、自分の前に映る文字、品物、光景、風景などを映し、それを、電話の相手である遠隔にいる通訳介助者、家族などが、遠隔から体表点字で説明するものである。2001年からの視覚障害者の「テレサポートの場合は、対象が視覚障害者なので、音声でこれを説明する。(*)(長谷川,古川)  これが、盲ろう者の場合は、体表点字によるテレサポートで、自宅の郵便受けに届いた手紙の差出人の名前、あるいは、はがきの簡単な内容などを説明することができる。  テレサポートで説明する品物のうち、缶詰、食品のパックの文字や絵を説明することにより、盲ろう者の食事の準備に役立てる。  また、衣服の色や形を映すことにより、外出時の服装の点検をすることができる。  そのほか、現在いる部屋の光景、あるいは、屋外において風景の説明を受けることもできる。 ・これまで、介助者や家族が盲ろう者と同じ場所にいる場合だけにかぎり、触手話、指文字、掌文字、指点字などで以上のような情報を直接に伝えることができた。 ところが、もし同じ室内にいても、直接に手が盲ろう者に触れていなければそれができないほどの不自由さであった。しかし、ヘレンケラーホン-テレサポートでは、このように盲ろう者と同じ場所で接していなくても、電話を用い、遠隔から目の前の視覚的情報のサポートが可能であるところにその本質的な意味がある。この技術は、世界に提案できる日本で生まれた盲ろう者に対する新しい福祉技術である。 ■点字、六点漢字、体表点字、点字式文字入力 ●点字  約6千年以前のメソポタミアでの文字の発明以来、文字は光で届く情報を目の視覚で読むのが当然であった。点字考案者のルイ・ブライユにとって、ヒントとなったシャルル・バルビエの軍隊の夜の暗号があったとしても、ルイ・ブライユは、自身の6点式点字を指の触覚で読む実用の文字までに作り上げたところにその大きな功績がある。  日本の点字となった石川倉次の仮名点字体系は、ブライユ点字のアルファベット、数字をそのまま包含する点字体系である。 ●六点漢字体系  長谷川は、六点式点字で、墨字と1対1に対押する「六点漢字体系」を開発した。  六点漢字体系は、すべて六点式であり、ブライユ点字体系を包含する石川の仮名点字体系、それを更に包含する平仮名、及びJIS漢字に対応する漢字などからなる日本語体系である。そして、世界で点字と結合している文字を包含し、あらゆる言語の文字を点字との相互変換で墨字として表現できる体系でもある。  六点漢字体系を、1972年に第1案としてその構成に着手した。1973年に第2案を自動点訳実験に応用した。また、1974年に第4案をもって点字キーによる日本語入力の実験を行なった。(国立国会図書館電子計算機システムなど)  1981年に六点漢字体系第10案をもって、パソコンによる日本語ワープロ第1号機を開発し、後に高知システム開発の「AOK日本語ワープロ」、スクリンリーダーのPC-Talker、その他の六点漢字によるシステムなどとなって今日に至っている。 ●体表点字  体表点字の研究は、1975年に長谷川が当時の通産省工業技術院の平仮名を背部で読む実験に協力し、点字なら6点だから容易に読めると着想した時に始まる。  2002年に佐々木信之教授(現・筑波技術大学)に会い、体表点字の研究を共同で進めることになった。  2003年に背部などに6個の振動子を置いて実験したが、同時に6点の形の刺激では読めないものがあることが分かった。そこで、これを1の点から順に振動させることで読めるようになった。6点の同時刺激については、なお検討の余地がある。  その後、振動子を2個付ける現在のような2点式体表点字がケーブル数が少ないなど、とりあえず便利なのでこの方式を用いている。しかし、ブルートゥースなどにより振動子が無線になれば、応用目的に合わせ更に3点式、4点式、6点式、多点式の体表点字も用いる。  体表点字の応用としては、とりあえず盲ろう者用電話であるヘレンケラーホンで行なっているが、体表での振動は、障害があることや年齢などに関係なく、誰でもが感じる刺激であるから、この体表点字を学習することにより、視覚障害者、聴覚障害者、健常者への応用もあると考える。  体表点字で、特に注目することは、年齢や指の知覚障害の関係でどうしても指先で点字を学習できなかった盲ろう者が、体表点字で点字を学習できたことである。 ●点字方式による文字入力  点字の6点は左右の2点が3段よりなっている。  1983年に、パソコンが普及しはじめて、点字キーによる日本語入力を行なう必要から、フルキー上のF,D,S J,K,Lを点字タイプライターのキーのようにソフトで行なえるようにした。 (1983年 長谷川, 村井)  携帯電話でヘレンケラーホンを開発し、点字の形を送信するのに、テンキーのうちの6個を点字の形に見立て、1,2ボタンを点字の上段、4,5ボタンを同、中段、7,8のボタンを同、下段に配置し、0ボタンを確定ボタンにした。  次に、らくらくホンの音声機能を生かし、テンキーによる日本語入力を目的として9個のボタンを点字1マス半に見立てて、携帯電話における六点漢字入力実験を行なっている。また、点字の縦3点2列を8進数2桁に置き換えた入力実験も行なっている。(長谷川 ,牛田) [参考資料] ・視覚障害とユビキタス社会 : テレサポートNET (長谷川貞夫,古川愛子著) (*) http://opac.ndl.go.jp/recordid/000010646614 ・月刊「視覚障害―その研究と情報―」2009年9月No.256号 ・絵文字を含む六点漢字体系における携帯電話向け点字マッピング入力方式の検討 牛田啓太(群馬工業高等専門学校電子情報工学科) 長谷川貞夫(桜雲会体表点字研究プロジェクト) 今井智(群馬工業高等専門学校電子情報工学科/現在:静岡大学) 第35回感覚代行シンポジウム 2009.12.7 ・DTMF信号と体表点字による盲ろう者用読書システムの開発 大墳聡(群馬工業高等専門学校) 佐々木信之(筑波技術大学) 長谷川貞夫(桜雲会体表点字研究プロジェクト) 原川哲美(前橋工科大学) 第35回感覚代行シンポジウム 2009.12.8 ・六点漢字の自叙伝  http://www.wesranet.com/6ten/txt6idx.html ・コアライフ熟語と長谷川式六点漢字と文殊式ローマ字入力  http://heartland.geocities.jp/corelifey/index.html ・長谷川貞夫の視覚障害とユビキタス情報バリアフリー  http://ubq-brl.at.webry.info/ ・視覚障害とユビキタス社会−テレサポートNET  http://www5d.biglobe.ne.jp/~sptnet/