■1−3 周囲との人間関係からみた特別支援(養護)学校卒業生の生活状況 丸岡稔典(国立障害者リハビリテーションセンター研究所) 南雲直二(元・国立障害者リハビリテーションセンター研究所) 国立障害者リハビリテーションセンター研究所の丸岡稔典です。「周囲との人間関係からみた特別支援(養護)学校卒業生の生活状況」について報告します。 1.目的 1-1研究の背景 しばしば、障害者と周囲の人との関係が障害者の行動やコミュニケーション、社会的活動の制約に影響を与えることが指摘されています(堀,1994)。周囲の人の良好な人間関係やそうした人々から適切なサポートは、社会的活動の制約の軽減につながることが期待できます。したがって、障害のある人とない人が共に生きるノーマライゼーション社会を実現する上でも、また個々の障害者の生活状況の改善を図る上でも、障害者を取り巻く人間関係について検討することは重要です。 中途障害者と比べて、ライフサイクルのほとんどを障害者として過ごす幼いころからの障害のある脳性まひ者は人間関係形成が不十分であり、家族以外の人との人間関係をどのように広げていくかは、親亡き後の生活を考える上で重要な課題であるとの指摘もあります(増田,2004)。したがって、幼いころからの障害者の生活を考える上では、特に、周囲との人間関係についての視点が求められます。 しかし、これまでの障害者福祉施策において、障害者を取り巻く人間関係については、十分な配慮がなされてきたとはいえません。非障害者に障害者への理解を深めてもらうという啓発的な施策に留まるものが多く、障害者とその周囲の人との具体的な人間関係の構築・維持については十分に扱われてきませんでした。また、これまで、障害者による自己決定権の行使を障害者の自立と定義してきた自立生活理論は、施設や親元を離れ地域で生活する障害者の増加に大きな貢献を果たしてきました。しかし、自立生活理論は障害者の生活場面での自己決定権の確立を重視してきたため、これまで助け合いや他者との連帯との関わりの視点から、障害者の自立について十分に議論を積み重ねてきませんでした(田中,2005)。したがって、地域における障害者とその周囲の人の相互交流などの具体的な人間関係の状態を、その障害者の地域生活を評価する要素としては十分に取り扱ってきませんでした。 1-2研究の目的  本研究の目的は、特別支援(養護)学校(以下養護学校)を卒業し、地域で生活している肢体不自由者を対象とし、彼ら/彼女らを取り巻く人間関係の実態を把握することを通じて、求められる支援のあり方についての示唆を得ることにあります。 2.方法 2-1調査方法  調査票調査をA特別支援(養護)学校の同窓会にご協力をお願いして実施しました。調査の対象となった方は、養護学校を卒業された方のうち、同窓会に所属されており、在宅で生活されている652名です。最初に、調査の趣旨を説明する文書を郵送し、郵送配布回収形式のアンケート調査もしくは訪問面接形式のインタビュー調査へのご協力をお願いし、同意の得られた方に対して調査を行いました。 その結果、98名の方から回答をいただきました。回収率は15%でした。 2-2調査項目 調査項目は、属性、障害・介助の状況、外出頻度、就労状況、周囲との交流の状況などです。そのほかに、日常生活動作能力を評価する尺度として、蜂須賀氏により開発された自己評価式Barthel index(Hachisuka,1997)、および情緒的なサポートの受領状況として、宗像氏により開発された情緒的支援ネットワーク尺度(宗像,1996)を用いました。 3.結果 3-1回答者の属性と障害・介助の状況 年齢の平均値は52.9、中央値は55で、回答者の中心は50代、60代でした。性別は男性55名、女性43名でした。 障害種別は、脳性マヒが63名、ポリオが12名、その他と無回答を併せて23名でした。言語や発話に障害のある人が63名、ない人が36名でした。介助状況は、日常生活に介助が不要な人が32名、介助が必要のうち公的ヘルパー利用者が45名、非利用者が14名、無回答・その他の方が7名でした。 3-1同居家族  同居家族についての回答を、1)単身または友人と同居者、2)親、兄弟姉妹のいずれかと同居者、ただし配偶者や子どもとの同居はしていない人、3)配偶者や子どもとの同居者、ただし親や兄弟姉妹と重複して同居している人を含む、の3つに分けました。 その結果、親、兄弟姉妹のいずれかと同居者が47%、配偶者や子どもとの同居者が35%、単身または友人と同居者が15%でした。 続いて、年代別に同居者をみると、配偶者や子どもと同居者は50代以上でしたが、単身や友人と同居者及び親や兄弟姉妹のいずれかと同居者との同居者は幅広い年代に分布していました[表1]。 [表1 年代別同居家族(人)] ■単身友人同居: 20代・1人、30代・2人、40代・2人、50代・4人、60代・4人、70代以上・2人 ■配偶者子ども同居: 20代・0人、30代・0人、40代・0人、50代・7人、60代・19人、70代以上・8人 ■親きょうだい同居: 20代・9人、30代・11人、40代・7人、50代・15人、60代・3人、70代以上・1人 3-2周囲の人との交流  周囲の人との交流について、別居家族、地域住民、友人の中で月1回以上自宅訪問、電話、手紙、メールなどの連絡のある人数が1名以上の場合を交流あり、0名の場合を交流なしと区分しました。その結果、別居家族、地域住民、友人と交流があると回答した割合はそれぞれ約65%、約23%、約59%でした。また、約15%が別居家族、地域住民、友人のいずれとも交流がありませんでした。あわせて、友人との交流があると回答した人のうち、親友がいると答えた人に対して、その人と知り合ったきっかけを自由回答で尋ねたところ、学友、職場や訓練所関係者を挙げた割合が高くなっていました[表2]。 [表2 親友と知り合ったきっかけ](1人の方が複数挙げている場合は複数分記載) 学友=19人、職場・訓練所=10人、趣味や宗教=8人、団体やサークルの活動仲間=8人、友人・知人の紹介=4人、その他=6人  次に、同居家族の種類別に別居家族、地域住民、友人のいずれとも交流がないかどうかを比較しました。結果、親やきょうだいとの同居者はそうでない人と比べて、交流がない割合が高くなっていました[表3]。 [表3 同居家族別交流状況(人)] ■単身友人同居: 交流なし=0人、交流あり=13人 ■配偶者子ども同居: 交流なし=3人、交流あり=30人 ■親きょうだい同居: 交流なし=12人、交流あり=33人 また、別居家族、地域住民、友人のいずれとも交流がないかどうかを被説明変数としてロジスティック回帰分析をしました。その結果、親やきょうだいとの同居者はそうでない者と比べて、交流がない割合が高くなっていました[表4]。 [表4 交流なし群との関連事項] ■年齢: B=−0.05、p値=0.126 ■男性ダミー: B=1.59、p値=0.081 ■親きょうだい同居ダミー: B=-2.95、p値=0.007 **(註参照) ■日常生活動作: B=0.01、p値=0.360 ■一般就労ダミー: B=2.32、p値=0.128 ■通所ダミー: B=-1.30、p値=0.408 ■定数: B=5.23、p値=0.133 ■-2 対数尤度: B=39.12 ■Cox & Snell R 2 乗: B=0.23 註: * p<0.05、** p<0.01、*** p<0.001、以下同様  これらのことから、親きょうだい同居者はそうでない人に比べて、周囲との交流が少ない傾向があることがうかがえました。 3-3情緒的支援の受領  情緒的支援ネットワーク尺度を用いて、情緒的支援の受領状況を評価しました。情緒的支援ネットワーク尺度とは、「会うと心が落ち着き安心できる人がいる」などの10項目について該当する人物がいるかどうかを聞き、「いる」とした項目の合計数を得点とする尺度です。本調査では、家族の中にいるかどうかと、家族外にいるかどうかを分けて尋ねました。  家族外の情緒的支援ネットワーク尺度の得点の平均値は7.52、中央値は9で、全体的には家族外の人から良好な情緒的支援を得られていました。続いて、家族外情緒的支援ネットワーク尺度得点を被説明変数として重回帰分析をしました。結果、友人との交流と家族内の情緒的支援ネットワークが正の影響を与えていました[表5]。 [表5 家族外情緒的支援関連事項](数値は各項目の標準化係数) ■年齢=-0.05 ■男性ダミー=-0.15 ■親きょうだい同居ダミー=-0.04 ■日常生活動作=0.04 ■外出回数=0.12 ■別居家族交流ダミー=0.08 ■地域住民交流ダミー=-0.07 ■友人交流ダミー=0.36 ** ■家族内情緒的支援=0.45 ** ■調整済みR2乗=0.49 ■F値=6.16 *** 3-4外出  1週間当たりの外出回数の平均値は3.89、中央値は4でした。また、約18%が1週間当たりの外出回数が1回以下でした。  続いて、外出回数を被説明変数として重回帰分析をした結果、年齢、日常生活動作の制約、親や兄弟姉妹との同居、との間に負の関連が、友人との交流と作業所への通所との間に正の関連がみられました[表6]。 [表6 外出関連事項]   ■定数: p値=0.019 ■年齢: 標準化係数=-0.33、p値=0.041 * ■男性ダミー: 標準化係数=-0.07、p値=0.576 ■親きょうだい同居ダミー: 標準化係数=-0.46、p値=0.001 ** ■日常生活動作: 標準化係数=0.25、p値=0.024 * ■別居家族交流有無: 標準化係数=0.01、p値=0.916 ■地域住民交流有無: 標準化係数=0.03、p値=0.800 ■友人交流有無: 標準化係数=0.30、p値=0.010 * ■一般就労ダミー: 標準化係数=0.14、p値=0.233 ■通所ダミー: 標準化係数=0.39、p値=0.015 * ■調整済み R2 乗: 0.33 ■F 値: 標準化係数=4.55、p値=0.000 *** 4.考察 4-1社会的孤立の状況 本調査結果により、別居家族、地域住民、友人のいずれとも交流がない者が約15%、1週間当たりの外出回数が1回以下である者が約18%存在することが示されました。したがって、これらのことから、公的な福祉サービスが拡充されつつある現在においても、養護学校を卒業した肢体不自由者の一部に社会とのかかわりを十分に持っていない、社会的孤立の状態に陥る危険のある層が一定程度いることが示されました。 なかでも、親きょうだい同居者は、そうでない人と比べて、別居家族、地域住民、友人のいずれとも交流がない割合が高く、しかも1週間当たり外出回数が低い傾向がみられました。したがって親きょうだい同居者に対して、社会的孤立に陥ることを防ぐような支援が必要であると思われます。 4-2友人との交流の重要性  本調査結果により、友人との交流が家族と同等の情緒的支援の源泉となっていることが示されました。しかし、外出回数と家族外からの情緒的受領状況の関連はそれほどみられませんでした。したがって、情緒的支援の受領を促進する上では、単に外出機会を保障するだけでなく、外出先での人間関係の形成のありようも考慮する必要があるといえます。  また、友人と交流のある人はそうでない人と比べて1週間当たりの外出回数が多い傾向が示されました。友人がいるために外出回数が増えるのか、外出回数が増えることで友人ができるのかは本調査では十分に明らかにできませんでした。しかし、親友と知り合った経緯として学友や職場関係者を挙げる人が多いことから、学校や職場で知り合った友人との関係が継続することで、外出頻度が増えているものと推測されます。したがって,現在外出に制約を抱えている層に対しては、公的福祉サービスを拡充するだけでなく、友人関係に近い身近な同伴者の提供も有効であると推測されます。  これらのことから、定期的に連絡を取り合うような友人との関係を構築・維持していくことが情緒的支援の受領や外出活動につながると考えられます。したがって、養護学校を卒業した肢体不自由者の生活を充実したものする上で、友人関係の構築・維持していくことが重要であるといえます。 5.まとめ 5-1 まとめ 本研究では、A養護学校卒業生のうち同窓会に所属している在宅生活者を対象として、郵送配布回収または訪問面接形式で調査票調査を実施しました。 その結果、1)卒業生の中に社会的孤立の状態に陥る危険のある層が一定程度存在し、特に親きょうだい同居者にその傾向がみられること、および2)養護学校を卒業した肢体不自由者の生活を充実したものする上で、友人関係の構築・維持していくことが重要であること、の2点が示されました。 5-2 今後の課題 本調査では、回収率が低く、また回答者の年齢が高めとなっていました。したがって調査結果の解釈に当たっては、回答者層に偏りがあり、必ずしも養護学校卒業生の全体像を表しているとは言えません。今後、調査方法の再検討も含めて、正確な調査をすることが望まれます。しかし、より社会的に孤立している場合には、調査への回答自体が期待できないことを考えると、社会的に孤立の危険性のある層の割合は本調査結果よりも多いことが十分に考えられます。 また、本調査では友人を中心として障害者とその周囲の人との具体的な人間関係の構築・維持の支援のあり方については十分議論できませんでした。これについては、現在地域で行われているさまざまな実践を丁寧にみていく必要があると考えられます。 参考文献 Hachisuka, K. et al., 1997, Self-rating Barthel Index Compatible with the Original Barthel Index and the Functional Independence Measure Motor Score, Journal of UOEH, 19, 107-121. 堀正嗣,1994,『障害児教育のパラダイム転換?統合教育への理論研究』柘植書房. 増田公香,2004,「加齢する肢体不自由障害をもつ人々の参加の要因分析--障害種類別にみる特性に焦点をおいて」,『社会福祉学』45-1,35-45. 宗像恒次,1996,『行動科学からみた健康と病気』メディカルフレンド社. 田中耕一郎,2005,『障害者運動と価値形成―日英の比較から』現代書館. 謝辞: お忙しい中、調査にご協力・ご回答をいただきました皆様、ありがとうございました。 付記:本研究は文部科学省科学研究費補助金「障害者の自立生活に対するインフォーマルなサポートの役割に関する研究」の補助を受けて行われました。