■08 「自立」支援における地域間格差 土屋葉(愛知大学) 【目的】 「自立」生活には、それを支えるさまざまな要素が必要不可欠である。しかしこれらをめぐる地域の格差は著しく大きい。また「自立」に対する意識にも差があることが推察される。本研究では、「自立」生活を支える基盤が整備されていないと推測されるA地域に焦点化し、障害をもつ人の生活実態を把握することを目的とする。こうした地域は全国各地に存在することは想像に難くない。この地点から「自立」支援のあり方について検討を行うことは意義がある。 【方法】 障害をもつ当事者、障害をもつ人を支援する団体、関連機関、支援者へのインタビュー調査を行った。主なインタビュー内容は、障害をもつ当事者については、基本属性、居住形態、生活史、社会サービスの利用、「自立」についての考え方等、支援団体・支援者については、地域における障害者を取り巻く状況について、支援団体における支援内容について、「自立」についての考え方、さらに当該団体が支援している障害者の、就労状況、サービス利用状況、家計状況、自立支援法施行前後のライフスタイルの変化など。 【結果と考察】 A地域はこれまで障害当事者運動があまり盛んではなかった土地である。中心都市B市には、1960年代より大型施設が複数存在しており、施設先行型の都市であるといえる。1990年代からは、無認可作業所からはじまったグループホーム、相談支援所等が設立されはじめている。 A地域B市における障害をもつ人は、定位家族で暮らす人が多いこと、自宅から通所施設(作業所)に通い、親が高齢になると施設に入所するというライフコースが一般的であることが明らかになった。定位家族から離家しない原因は経済的な要因ばかりではなく、親や子どもの意識の齟齬にあること、親の側は子どもとの別居や一般就労に消極的であることも示唆された。「自立」の支援の方法としては通所施設をベースとして、宿泊体験を経てのグループホーム移行、あるいは他組織との連携というかたちで行われはじめているが、数としては多くはなく、積極的ではない面もみられた。また支援者は、定位家族において親が子供をサポートすることを前提として認識する傾向にあった。これは固定的な自立観を助長したり、本人の望む「自立」を阻害する可能性もある。 さらに、A地域における「自立」をめぐる困難がみえてきた。その要因としては、社会サービス・介助者の不足、「自立」生活に関するモデルの不在、固定的な自立観、自立生活センターの機能不全があった。 以上から、自立支援法下での、サービス供給に関して、地域間格差の現状の一端が明らかになった。A地域での「自立」は困難であり、より充実したサービスの供給をもとめて障害者が都市部へ移動していく、サービス供給量が増えず、地域での自立が困難になるといった悪循環が生じている。 A地域においては、「自立」モデルが不在であり、固定的な自立観がある。ここから、障害者・支援者および家族への「自立」へのエンパワメントの重要さが導き出される。この機能を担う機関の1つとして、自立生活センターが挙げられるだろう。 当日は、行政機関への調査結果もあわせて報告する予定である。また、B市と大都市圏における同人口規模の都市の比較を行う。さらに、画一的ではない「自立」のあり方を提示しつつ、障害をもつ人をエンパワメントしていく重要性、およびA地域における実践についても言及する。 【付記】 本報告は平成20年度〜22年度「障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究」(勝又幸子・国立社会保障・人口問題研究所)による研究成果の一部である。 【参考文献】 DPI日本会議,2010,「地域主導による障害者支援プロセスのケーススタディ」障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究平成21年度総括研究報告書 尾上浩二,2009,「支援費制度と障害者自立支援法」茨木尚子ほか『障害者総合福祉サービス方の展望』ミネルヴァ書房,121-137. 土屋葉,2009,「障害をもつ人の生活実態および生活への支援――支援団体へのインタビュー調査から」『障害者の自立支援と「合理的配慮」に関する研究』(平成20年度総括研究報告書、研究代表者勝又幸子),95-103. 土屋葉,2010,「地域における障害者の「自立」支援のあり方に関する検討」(平成21年度総括研究報告書、研究代表者勝又幸子),82-93.