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向老期障害者の地域生活実態とその支援に関する研究‐ライフストーリー法による接近‐

小阪菜穂美(きららファミリーサポートサービス)

障害学会第5回大会 於:熊本学園大学


◆要旨

1.研究の目的

 本研究においては、向老期の身体障害者がこれまで培ってきた社会的支援関係の移り変わりをフォーマルとインフォーマル両面から明らかにする。その上で、本人がもっている社会的支援関係を維持、またさらに拡げていくためには、どのような支援が必要であるのか、その方向性をライフストーリー法に基づいて行われたインタビューのデータによって、見出していくことを目的とする。なお本研究では、地域生活実態としているが、今回は地域生活の中でも特に社会的支援関係に焦点をあて、検討を行った。

 平成18年に厚生労働省が行った身体障害者実態調査によると、65歳以上の在宅身体障害者は、在宅身体障害者のうち63.5%と半数以上を占めている。今後もさらに高年齢の障害者が増加していくとされている中で、住みなれた地域の中で継続した生活を送っていくためには、地域生活支援の充実が重要な課題となっていくと考えられる。

 

2.研究の方法と内容

 本研究の対象は、50歳から64歳の身体障害者とする。高年齢の障害者の地域生活支援の方向性を見出していくにあたり、高齢期を迎える前である向老期に設定した。それは、今までの生活を本人はどのように意味づけてきたか、今後の生活に対してどのようにとらえているのかに着目することで、支援の方向性を見出すことが期待できたためである。

 本研究をすすめていくにあたっては、ライフストーリー法を用いた。これは、本人が自分の周りの人たちとの関係をどのようにとらえてきたのかを時系列的に、なおかつ主観をもとに明らかにすることが、支援の方向性を考えていくにあたって重要であると考えたためである。さらに、ライフストーリーインタビューによって得られたインタビュー内容をカーンとアントヌッチ(1980)が提唱したコンボイ理論に基本的に依拠しながら分析を行なった。また、先行研究の検討をふまえて出した、「予測される向老期障害者におけるコンボイの構造」とも関連させながら分析、結論のまとめを行った。

 調査の分析と解釈を行った上で考察に入った.4人の向老年期障害者ぞれぞれの考察と4人を通しての考察を行った.4人それぞれの考察では,地域生活という側面に着目して行った.4人を通しての考察では,地域生活支援につながるプロセスにそって,①就学期の支援,②両親との関係,③障害の受傷,④友人・仲間との関係,⑤公的機関とのかかわり,⑥ホームヘルプサービスを活用しての生活 の6点を通して考察し,全体的な流れを⑦長期的な移り変わりをみる視点 の項目を通して考察した.これらの考察をふまえて結論をまとめた.

 

3.結論

 その結果として、次の3つの示唆が得られた。

①長期的な流れを通じて理解することの重要性の確認

 特に、生まれながらに障害をもって現在に至った方2名の考察においては、支援が得られていた時期と得られていなかった時期がある事が分かった。また、本人の支援に対するとらえ方の移り変わりがみえた。これは、周りにいる人の考え方や状況によっても少なからず影響を受けていることが分かる。例えば、公的な支援に対して抵抗感をもっていた方が、家庭環境の変化によってサービスを使い、とらえ方が変わった事などがあげられる。

②ホームヘルプサービスの可能性と逆機能の両側面

 家庭環境の変化などによる介助者代替の意味でも身近なサービス提供者であるヘルパーは重要だと考えられる。しかし、ヘルパーの利用のみに偏ることによって人間関係が狭まってしまう恐れがある事も語りから予測された。

③向老期障害者におけるソーシャルサポートネットワークの必要性

 長期的なプロセスとして、家庭環境の変化、精神的な安定にもつながる友人とのかかわり、公的なサービスの活用の3点が大きな流れとしてみえた。向老期は、周りの環境に変化が現れやすい時期であるため、特に本人をとりまくソーシャルサポートネットワークが必要となってくると考えられる。

                                      (*詳細は当日提示予定の資料参照)

文献 ・R.L.カーン/T.C.アントヌッチ(1980)「生涯にわたる『コンボイ』 愛着・役割・社会的支え」東洋他 編集・監訳 近藤清美他 訳(1993)『気質・自己・パーソナリティ』新曜社


UP:20081004


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