■障害学会第3回大会(於:長野大学) シンポジウム2「テクノロジと障害」 2006.6.4 「テクノロジの障害学」の試み −−情報技術の革新が盲人にもたらした変化を事例として−−                            倉本智明(評論家・関西大学) 1.はじめに (1)障害学になにができるか?  「テクノロジと障害」という主題にかかわって、障害学は既存の研究になにをつけ加え、どう機能することができるか。 (2)テクノロジへの期待と懐疑  ・ヴィク・フィンケルシュタインのオプティミズム  ・障害者運動における反テクノロジ言説−−電動車いす否定の論理 2.ITと盲人の生活環境の変化(I)−−墨字へのアクセス可能性 (1)紙媒体への直接的アプローチ  書く → タイプライター 読む → オプタコン (2)電子媒体とインターフェイス  音声ワープロ、スクリーンリーダー(画面読み上げソフト)の登場      ↓  ・<コード>の前での平等 (3)紙媒体から/への入出力の効率化  (2)による(1)の洗練  入力 → イメージ・スキャナ+OCR 出力 → プリンタ      ↓ # 墨字へのアクセス可能性の拡大は、入手できる情報の量を増大させただけでなく、「人間関係」からの解放をももたらした。 → 時間的・空間的制約の軽減に加えて、扱いうるコンテンツにも変化 3.ITと盲人の生活環境の変化(II)−−文字からネットワークへ (1)コンピュータ・ネットワークと<コード>の増殖  ・アクセス可能な情報の飛躍的増大   i.パソコン通信からインターネットへ   ii.Eメールとウェブ  ・検索技術とウェブのもつ可能性の拡大 (2)生活様式への影響  「新聞購読」、買物、読書スタイル、人間関係 etc. (3)盲界(盲人コミュニティ)の構造変化  [インターネット以前]盲学校、リハビリテーション施設、職能団体、盲人団体などが核           ↓  [インターネット以後]上記に加え、MLなどを媒介とした新しいネットワーク 4.盲人のIT利用とデジタル・ディバイド (1)技術面での問題  ・暗黙裏に前提される「身体」  ・インターフェイスで吸収できるもの、できないもの (2)経済面での問題  ・ふたつの意味での追加負担  i.晴眼者なら不要な場面でもコンピュータ等が必要  ii.専用のソフトウェアやハードウェアのためにさらに負担が求められる   (マーケットの規模と価格) (3)リテラシーをめぐる問題  ・リテラシーにおける「追加負担」  ・リテラシーを育てるための手段の制約 5.書記言語としての日本語ともうひとつのディバイド (1)日本語における点字と墨字の相違(主なもののみ)  i.漢字を用いない   (「漢点字」や「六点漢字」というものもあるが、あまり一般的ではない)  ii.分かち書きをする  iii.表音主義をとる(例外あり) (2)漢字という障壁  ・「書くこと」の困難   どの字を用いるか、とともに、どこで用いるか      ↓  ・否定的なまなざしと書くことへの抵抗      +  ・検索の困難 → ウェブの活用にも制約 (3)失明時期がもつ意味の変容  ・かな漢字まじり文の読み書きを習得してからの失明か否か   → 情報へのアクセス、コミュニケーションの機会を左右      ↓  ・考えうる対応策   i.盲教育の見直し   ii.テクノロジによる吸収   iii.文化的寛容(?) 6.おわりに (1)技術が解決できること、できないこと  ・印刷工程へのコンピュータの導入   → 技術面では、盲人の墨字出版物へのアクセス問題は大半が解決      ↓   but 社会経済的には未解決(知的所有権の保護 etc.) (2)障害学に求められる役割  テクノロジが障害者にもたらす正負の影響と、それと関連して生じる社会の変化を記述するとともに、技術を有効に利用し、また、有用な技術を開発・普及するための方途と基準について社会という文脈をふまえて考えること、そのための場を用意することが障害学に求められる。